水にはおもにカルシウムイオンとマグネシウムイオンという成分が含まれていて、水1000ml中にあるカルシウムとマグネシウムの量を数値で表したものが「硬度/Hardness」です。硬度が120mg/l以下を「軟水/soft water」、120mg/l以上を「硬水/hard water」といいます。ヨーロッパは平坦な大地が広がるため地中滞在時間が長く、ミネラル分の多い石灰岩の地層が多いので、地層のミネラルを含んだ硬水が多くなります。日本でもダイエット効果が期待できるということでヨーロッパのミネラルウォーターに人気が集まっていますが、実際ヨーロッパで暮らす人々はどのように硬水を活用しているのでしょうか。さっそくヨーロッパの水事情についてご紹介します。
硬水はメリットとデメリットが表裏一体?
ヨーロッパの多くの国の水道水は厳しい基準で管理されており、浄水設備も整っていますから、安心して利用することができます。とはいえ水道水の水質が硬水であるため、硬水に含まれているカルシウムやマグネシウムが原因で生活上不便な点もあるようです。
赤ちゃんや家事には不向き
硬水にはマグネシウムが豊富に含まれているため、胃腸を刺激して活発化する作用があります。そんなわけで便秘改善には効果が期待できる一方で、臓器が発達していない赤ちゃんや成長期の子供、胃腸が弱い人が飲むと、マグネシウムの作用によって胃腸に負担がかかる可能性があります。またマグネシウムには独特の苦味、風味、香りがあるため、軟水と比較した場合、料理にはあまり適していないといえます。なぜならミネラル分が多いため、そのまま水を沸かすと下に石灰などのミネラル分がたまってしまったり、たんぱく質が固まってしまい、素材の旨み成分が溶けにくかったりするからです。
ほかにもミネラル分が多いせいで洗剤や石鹸がよく泡立たず、洗った食器を拭かないと白く跡が残る、せっけんが泡立ちにくい、水道管や食器洗浄機などに石灰質が付着して故障を引き起こしたり、洗濯したら白い衣類が灰色に変色してしまったなどのデメリットがあり、生活用水としては不便な面もあるようです。
硬水ならではの工夫から生まれたヨーロッパ料理
硬水のクセのある一面をここまでご紹介してきましたが、一方で、ヨーロッパでは硬水の長所を生かした家庭料理が浸透しているのも事実。たとえば「あく」を除きたい場合や煮くずれさせたくないときには、軟水より硬水を使うときれいに仕上がります。硬水に多く含まれるカルシウムが肉を硬くする成分と結びついて「あく」として出るので除去しやすくなるからです。ヨーロッパでポトフやビーフシチューといった肉を煮込むさまざまな料理が発達しているのは硬水によるところも大きいといえます。また、肉が主体の西欧料理ではミネラルが不足しがちなため、硬水を使うことにより不足しがちなミネラルを補うこともできるのです。
また、赤ちゃんや胃腸の弱い人にはおすすめできない反面、スポーツ後のミネラル補給や、妊産婦さんのカルシウム補給には適していて、便秘解消やダイエットにも役立つといわれています。
ヨーロッパのミネラルウォーターは世界最高水準
ここまで水道水についてご紹介してきましたが、ヨーロッパはミネラルウォーター先進国ともいえるほど、非常に高いナチュラルミネラルウォーターの品質基準をもっています。ミネラルウォーターの品質基準として、殺菌の禁止・ミネラル分の基準値の設定・採水地周辺の環境保護などが義務付けられているからです。
ではどうしてヨーロッパではがミネラルウォーターの品質基準がここまで厳しく、かつ水道水が利用できるにも関わらずミネラルウォーターが多く消費されているのでしょうか? 日本人はミネラルウォーターを水道水の代用品と考えていますが、ヨーロッパ人は健康のために飲む水と考えているからです。そしてヨーロッパの人々は、水道水をあまり信用していないようです。ヨーロッパの水道水源の多くが河川水ですが、海のない内陸の国や都市では下水をそのまま水源である河川に流しています。上流の下水の混ざった河川水を下流では水道に用い、また下水を流すというようなサイクルで、水道の質は次第に低下していく地域も存在するからです。また、かつて大流行した、ペストやコレラなどの伝染病の感染源が河川水であった疑いがあり、河川水を水源とする水道水を信じていない風潮が現代でも残っているのです。
おわりに
ヨーロッパの水道水の中には、スイスのように家の水道水から天然のミネラルウォーターが飲めるという国がいくつかあるそうなのですが、基本的には硬水が多く、ヨーロッパの人々はメリットとデメリットを熟知したうえで工夫して水道水とミネラルウォーターを使い分けています。
水は命にも関わるもの。水道からいつでも飲めるという常識は海外では通用しない場合もあります。海外旅行先としても人気のヨーロッパですが、ひとくちにヨーロッパといっても国によって水事情は微妙に違います。旅行を考えるときはまず現地の水事情を確認してから行くことおすすめします。